スライド

Kさんは高校生のとき、電車で通学していた。
ある日の帰りの電車では向かい側にはTシャツを着たおじいさんとスーツ姿の若い男が並んで座っていた。
先に座っていたのはおじいさんのほうで、若い男が後からその隣に座った。
その二人は会話をしていたわけでもなかったから恐らく知り合いでもなく、たまたまその時並んで座っていただけだったのだろう。と、そういうことは後になってから思い返したことだ。別にその二人にもともと気になることがあったわけではなかったし、普段であれば大して気にも留めないような光景だった。


途中の駅に電車がもうすぐ到着するあたりのことである。Kさんは突然耳鳴りを感じた。左耳にだけ、高い電子音のような響きが差し込んできた。
すぐに収まるだろうと気にせず前を向いていたKさんだったが、その視線の先で異変があった。
向かい側に座った二人の頭がお互いに近づいていくように見えた。
しかし二人の肩から下は動いていない。首から上だけが肩の上をスライドしていく。
えっなにこれ、目がおかしくなったの?
目を擦って周囲を見回すが、変に見えるのは向かい側の二人だけだ。
ゆっくり動いているように見えたが、せいぜい十秒程度で二人の首はすれ違って相手の首のところに乗って繋がった。先程とは胴体と頭が入れ替わってしまった。
頭がおかしくなりそうなKさんをよそに間もなく電車は駅に到着し、若い男の頭部で首から下がTシャツ姿の男が席を立って降りていった。
おじいさんの顔でスーツ姿のほうはもう一駅あとで降りていったという。