ジョギング

健康診断のたびに運動不足を指摘されていたTさんは、三十代半ばで一念発起して毎朝ジョギングすることにした。
家から走って十五分ほどのところに霊園があり、Tさんの家のお墓もそこにあるので、そこまで行って手を合わせてから帰ってくる。別に目的地は他の場所でも良いのだが、三日坊主にならぬようご先祖様に見ていてもらうくらいのつもりだった。
そうしてジョギングを始めて三日目のこと。
荒い息を整えながらお墓に手を合わせ、さあ帰ろうと振り向いたところで三軒隣のお墓におばあさんがいた。
おばあさんは両手で墓石を抱きしめるようにしながら石の表面を撫でさすっている。さも愛おしいというような仕草だ。
大切な人が眠っているお墓なんだろうな。そう考えながらTさんはそちらに歩いていった。
通り過ぎるときにおばあさんに挨拶しようとして、声が喉まで出たところで気がついた。
おばあさんの胸から下がない。
両腕と首だけが墓石から生えている。
あっと息を呑んだTさんは目を合わせないように下を向いて霊園を出た。


翌日以降も霊園までのジョギングは続けたが、そんなものを見たのはその日だけだったという。