黄色い車

Mさんが妻と二人で買い物に出掛けたときのこと。車でスーパーに行く途中、信号待ちをしているとすぐ前の黄色い車のドアが開いた。
何事だと思って眺めていると中から出てきた男がおもむろにタイヤに足をかけ、ボンネットから屋根に上がった。そのまま屋根に横になる。
信号待ちの間に何をやっているんだ、他の車の迷惑だろう!
呆れたMさんはぶつくさ言いながらクラクションを鳴らそうとした。すると助手席の妻がMさんの肩に手を置いて言う。
ねえあなた、急に何? 何かあった?
何かあったも何も、あれ、危ないだろ。Mさんはそう応えたが妻は怪訝な顔をしている。
危ないって何がよ。
あんなの危ないに決まってるだろ、とMさんが視線を前に戻すと黄色い車の姿はなく、前の車までの間に一台ぶんのスペースがぽっかりと空いていた。


帰宅してからドライブレコーダーの映像を確認したが、あの黄色い車は全く映っていなかった。
映像の信号待ちのところでは、どういうわけか初めから一台分空けて停まっていた。目の前にもう一台存在しているかのように。
妻の話では、赤信号でいやに前と車間距離を空けて停まったなと思ったらMさんが前をにらみながら急に文句を言い始めたのだという。