教授の客

Rさんが大学生のときのこと。
教授に質問があって研究室に行くと、研究室のドアの前にスーツを着た老人が立っている。
真っ白な長いあごひげを蓄えた禿頭の老人だ。彼が少し猫背になってドアをノックすると部屋の中から教授の声でどうぞ、と聞こえた。老人はドアを開けて入っていった。
教授にお客さんか、今は質問してもダメそうかな、などと考えながらRさんは研究室のドアを開けようとした。学生たちは研究室に入るときにノックなどしない。
しかしノブが回らない。施錠されている。
今の老人が室内から施錠したのだろうか。それほど大事な話があるのか?
Rさんは試しにノックして失礼します、と呼びかけたが返事がない。重要な話があって施錠したとしても、返事がないのはおかしい。
少し迷ってから、Rさんは持っている鍵を使ってドアを開けることにした。研究室に所属している学生は全員合鍵を持っている。
ドアを開けると室内には誰もいない。
あれ? 教授とお爺さんは?
Rさんが困惑しているところに少しして教授が廊下からやってきた。
教授なぜそちらから? さっきのお客さんはどうしたんです?
そう尋ねると教授は怪訝な顔をする。教授は今しがたまで会議に出ていて、研究室にはいなかったという。
いやそれが今こんなことが、とRさんが見たことを話しているところで研究室のドアがノックされた。
教授がドアに向かってどうぞ、と声をかけるとドアが静かに開いた。誰も入ってこない。
Rさんがドアの外を見に行ったが、誰の姿もなかった。
R君が見たそのお客さんってどんな人だった? と教授が訊くので見たままを説明したが、教授にはそんな老人に心当たりは全くないということだった。