新雪の朝

大雪の降った翌朝のこと。
Nさんが起床して窓から自宅の庭を眺めた。案の定真っ白に積もっている。
たまにしか降雪がない地域だからみんな備えがない。十センチも積もれば交通が麻痺しかねない。
覚悟はしていたが、溜息が出た。
道が混むかもしれないから早めに家を出ないといけないかな。その前に家の前の雪かきか。
やれやれと思っていると、庭の雪の上に何かの足跡を見つけた。
塀の下から庭の半ばまでまっすぐ続いている。鳥だろうか。
いや、形が鳥の足らしくない。何かの獣だろうか。
塀を越えてきたのなら猫かな。いや、猫にしては足跡が細長い。
何の足跡だろう、と気になったNさんはサッシを開けて庭に出た。近寄って足跡をよく眺めて驚いた。
人の足跡だ。土踏まずや五本の指まではっきりと、新雪に形が残っている。
ところが大きさがおかしい。せいぜいNさんの人差し指くらいの長さしかないのだ。
赤ん坊の足くらいの大きさだ。
奇妙なことはそれだけではない。まっすぐ続いている足跡は、左足のものしかなかった。
赤ん坊が片足立ちで雪の上を進んでいく姿が思い浮かんだ。そんなはずはない。
そこまで考えて、もうひとつおかしなことに思い当たった。
足跡は庭の途中までしかついていない。それでは足跡の主はそこからどこに行ったのか。
鳥であれば飛んでいったのだろうが。
つい空を見上げたが、それらしきものは屋根の上にも見当たらなかった。
とりあえずこの変な足跡を撮影しておこうと思いついたNさんは、室内に戻ってスマホを取ってきたが、また庭に出ようとして目を疑った。
雪の上にはNさん自身の足跡しかついていなかった。
風で雪が均されたり、後から更に雪が積もって覆い隠されたはずはない。
ほんの一、二分の間に、あの小さい足跡が初めから無かったかのように消え失せていたという。