東京で働くRさんが葬儀のため新潟に帰郷した。亡くなったのは一つ年下の従妹で、まだ三十歳になったばかりだった。
幼い頃から姉妹のように一緒に育てられ、高校まで同じ学校に通った。家族のような親友のような、お互い何でも言い合える関係だった。
ところが近年はすっかり疎遠になっていた。Rさんが東京の大学に進学し、そのまま東京で就職したのに対し、従妹は高校卒業後に地元の役所に就職、地元で結婚したので接点がなくなってしまったからだ。
だから従妹が亡くなったと聞かされたのは全く予想外のことだった。自殺だという。
遺書はなく、明確な理由は不明なものの、育児と家庭内不和で精神的にかなり不安定だったと葬儀の直前に噂で知った。
死にたくなるほどの悩みに気付いてあげることができなかったなんて。
Rさんはショックと無力感で、葬儀の間ずっとぼんやりしていた。棺の遺体を見ても、火葬場で遺骨を見ても、どうにも現実感がない。涙の一滴も出なかったことがまたショックだった。
葬儀が終わると精進落しにも参加せずにすぐ東京に向かい、その日のうちに竹ノ塚のアパートに着いた。
喪服は着替えたものの何をする気にもなれず、シャワーを浴びるどころか立っているのも億劫でベッドに座り込んだ。
このまま横になって朝まで寝てしまおうかと思ったとき、出し抜けにすぐ傍から声が聞こえた。
「ねえ、ちょっと」
聞き慣れた従妹の声だ。間違えようもない。
首だけ回してそちらを見ると従妹がぺたりと床に座っている。妙に幼い。中学生くらいの年頃か。
だが紛れもない従妹の顔だ。
Rさんはこのとき感心したという。ああ幽霊って初めて見たけど、こんなにはっきり見えるものなのか。
透けているとか輪郭がぼやけているとかいうことは一切なく、まるで生きた人間のような存在感や生々しさがあったという。
従妹は無表情にRさんを見つめて言った。
「いい感じよね」
何が? と聞き返そうとして口を開いたときにはもう従妹の姿はなかった。室内を見回しても誰もいない。
いい感じってどういうことよ、全然よくないよ、と呼びかけたが静まり返った部屋に返事はなかった。