銀行の長椅子

昼過ぎにKさんが銀行に行った。
入口そばのATMで現金を下ろそうとしたところで、視界の端に見知った姿があるような気がしてちらと目を向けた。
長椅子に並んで窓口の順番待ちをしている人々の中に、友人の顔があった。
ところがその友人は昨年心臓発作で亡くなっている。いるはずがない。
いるはずはないのだが、ATMを操作しながら何度そちらを見ても、やはりよく知っているあの友人の生前の姿そのものだ。よく似た別人どころではない。
ATMから排出された現金とキャッシュカードをひったくるように掴み、長椅子の方に向かったKさんだったが、そのときには友人が座っていたスペース一人分がぽっかり空いていた。
見回しても友人の姿はもうどこにもなかったという。