サンタさん

二十年ほど前のクリスマスイブのこと。
Kさんは自宅で四歳の娘と夕食を取っていた。
夫は仕事で遅くなるということで二人だけだったが、せっかくのクリスマスなのでケーキくらいは用意した。
娘はケーキを頬張ってすっかりご機嫌だったが、半分くらい食べたところで急に立ち上がり、窓の方に駆け寄った。
サンタさん来る!
目を輝かせてそんな事を言う。
予定より早く夫が帰ってきたのかと思ったが、車が戻った様子はない。
娘が言っているのは何のことだろうと思いながらKさんも窓の傍に立ったところで、すぐ近所から大きな音が響いてきた。

 

ガランガランガラン!

 

それを聞いた娘が更に興奮した様子で叫ぶ。
ほらサンタさん!
しかしその音はサンタクロースの鈴の音というよりは、神社の鈴を力一杯激しく鳴らしたようなけたたましい音だ。
うるさいなあ、こんな時間に一体何なの、と窓の外に目を凝らしたものの、暗くてよくわからない。少なくとも人の姿や車などは見えなかった。
鈴の音はだんだん近づいてくる。何が来るのかKさんは少し不安になったが、娘は嬉しそうに窓の外を眺めている。何かが見えているのだろうか。
すると音は近づいてくるにつれて次第に上の方から聞こえてくるように感じられてきた。そしてそのまま頭上を通り過ぎ、やがて遠ざかって聞こえなくなった。
――飛んでいった? 何が?
上の方に消えていった以上、車や歩行者ではありえない。
サンタさん行っちゃったねー、と娘は残念そうに言う。
いい子にしてればサンタさんちゃんと来てくれるよ、とKさんは誤魔化したが、音の元が何なのかは皆目見当がつかない。
そもそも娘が反応したのは音が聞こえてくるより前のことだった。
娘にどうして「サンタさん」が来ることがわかったのか聞いてみても、説明は全く要領を得なかった。


後日隣近所にイブのことを尋ねてみたが、誰もそんな音は聞いていなかったという。