ピンクの手袋

Rさんが中学生の頃、家族のアルバムを見ていて気付いたことがあった。
幼い頃の自分が、どの写真でも必ず手袋をしているのだ。写真の日付によると、一歳から三歳までは季節を問わずいつも手袋をしている。
幼児用のいかにもかわいらしいデザインの手袋ではなく、ピンクではあるが無地の地味なものだ。
しかも同じ手袋のようで、一歳のときの写真に比べると三歳のときの写真では明らかに古びている。幼い頃の自分は、この手袋がそんなに気に入っていたのだろうか。
全く記憶にない。
手袋について尋ねると母の顔が曇った。
あんた何も知らない? 本当に?
まあ、あんな小さい頃のことなんて覚えてなくて当たり前だけど――母はそんな前置きから始めた。
一歳になってすぐにRさんは立って歩くようになった。よちよち歩きで家の中を動き回る。
水周りや火の元に近づいたり、家の外に出てしまっては危ないので、両親はRさんから目を離さないように注意していたのだが、それでもほんの一瞬の隙に部屋から廊下へ出てしまっていたり、玄関まで降りてしまっていたりということがあった。
なんてすばしっこい子なんだろうと呆れることもあったというが、やがて呆れるくらいでは済まない出来事があった。
部屋の中にいると思っていたRさんが廊下から部屋によたよた入って来た。小さな手になにかを握っている。
あんた何持ってるの、と顔を近づけた母は息を呑んだ。
小鳥の死骸だった。
こんなものどこで拾ってきたの、とRさんに尋ねたものの一歳児にまともな説明はできない。
玄関も窓も施錠してあるからRさんが外で拾ってきたはずはない。しかし家の中で鳥が死んでいるのもおかしい。
とりあえず死骸はすぐに捨てたが、わけがわからなかった。
しかし同じことが二度、三度と続いた。三度目などはカラスの死骸の足を握って引きずっていた。やはり家の中のことで、どこから拾ってきたか皆目わからない。どういうわけか、廊下の途中から黒い羽が点々と落ちていた。
両親は悩んだ。原因も解決法も見当がつかない。本人に言って聞かせることもできない。
いずれカラスよりもっと大きいなにかを拾ってくるのでは――と思うと恐ろしかった。
母は実家に電話で相談した。すると翌週になって荷物が届いた。
ピンクの手袋と実家からの手紙が入っている。手紙によると、実家の菩提寺の住職に相談して、頂いたお守りを手袋に縫い付けたという。
その手袋をRさんに毎日つけさせるようになってから、死骸を持ってくることはなくなった。

 


三歳になったときに少し様子を見てみようかということになり、七五三のついでに神社でお祓いをしてもらって、それから手袋を外して過ごすようになった。お祓いが効いたのか他の理由によるのかはわからないが、とにかくそれ以降死骸を持ってくることはなかった。