祖父の手

埼玉に住むUさんが小学五年生のときだったという。
学校から帰る途中、後ろから名前を呼ばれた。声の方を見ると向こうから祖父が手を振りながらやってくる。
祖父は父の出身地である静岡に住んでいる。訪ねてくるという話は聞いていなかったが、家に来るところで行き合ったのだろうか。
久しぶりに会うので嬉しくなったUさんは、祖父と手を繋いで家に向かった。
家に着くまでの間、祖父はほとんど口を開かず微笑みながらUさんを見下ろしていた。
家の玄関を開けて、奥にいるはずの母に向けて、おじいちゃんが来たよー、と声をかけた。
すぐに出てきた母は、Uさんの姿を見て顔を青くした。あんた、何持ってるの?
そう言われて手を見ると、Uさんが握りしめているのは祖父の手ではなく、鳩の死骸だった。
慌てて外に放り投げた。
見回しても祖父の姿はない。
母が祖父に電話をかけると、彼はこちらに訪ねてきてはおらず、その日はずっと静岡の家にいたらしい。
しかし帰り道で一緒に歩いてきたのは、Uさんには祖父にしか見えなかったという。