水槽の魚

Uさんは小学生の頃、学校から自宅ではなく祖父母の家に帰っていた。
両親が共働きだったので、両親が帰ってくるまでは祖父母に面倒をみてもらっていたのである。
祖父母は小さな雑貨屋を経営していた。
Uさんはその店の隅に水槽を置いて、近所の川で捕ってきた魚やザリガニなどを入れて飼っていた。
しかしある時、入れておいたはずの魚がすっかりいなくなっている。
前日までは確かにそこにいたのに、水槽のどこにも魚の姿がない。
祖父母に聞いてもまったく知らないという。
店は日中ずっと扉を開けてあるから、野良猫が入ってきて食べてしまったのではないか、というのが祖父の意見だった。
がっかりしたUさんだったが、数日後にはまた気を取り直して魚を捕ってきて、水槽に放しておいた。
今度は猫が手を入れられないように金網を被せた上で蓋をした。
そしてその晩のことである。
両親の帰りが遅くなるということで、夕食も祖父母の家で取ることになった。
食事の後でトイレに行こうとしたUさんは、店の方からバチャバチャという水音を聞いた。
水槽だ、と直感で思い至ったUさんは、猫がまた入り込んだのかと考えた。
しかし店は既に閉めている。一体どこから入り込んだか不思議ではある。
何はともあれ、急がなければまた魚が全部食われてしまう。
廊下を一目散に走ると暗い店内に駆け込んだ。
水槽の脇から白っぽいものがにゅるっと伸びて、水槽の中に入り込んでいる。
この猫野郎、と力任せに掴み上げようとしたが、どうやら猫ではない。
猫にしては長すぎた。
水槽の向こう側の壁の下の方から真っ白なものがずっと伸びてきている。
何だこれ?と水槽に入っているその先を覗きこんでみると、先端が五本に分かれている。
人の手だった。
真っ白な手が、水槽の中をバチャバチャかき回していた。
思わず飛び退いたUさんだったが、咄嗟に近くにあった売り物のほうきでその白い腕をバシッと叩いた。
すると腕は水槽からツルッと出てきてそのまま壁の下の方へと引っ込んでしまった。
Uさんは慌てて祖父を呼びに行ったが、祖父はなかなかそんな腕の話など信じてくれない。
疑っている様子の祖父と一緒に水槽をどかして壁を確認してみると、壁の下の方に十センチ余りの穴が開いている。
棒を突っ込んで中にあるものを掻き出してみると、魚の死骸がいくつも出てきた。
どれも無残に潰れた上にすっかりカラカラに乾いていたという。