愚痴

空調整備の会社で働くRさんの話。
事務所で書類仕事をしていたが、急にまぶたが重く感じられてきた。眠い。
睡眠不足というわけでもないのに、目を開けていられない。どういうことだろう。
眠気覚ましに立ち上がってお茶でも飲もうかと思ったのだが、立ち上がることもできずにどんどん上体が前のめりになる。
ついにパソコンのキーボードの上に突っ伏してしまった。
そこに、すぐ横から誰かが話しかけてくる。


「それなのに夫がいつもいつも――ねえ――っていうのに」


女の声だ。夫についての愚痴をくどくどと述べているようなのだが、眠気のせいか、はっきりしない喋り方のせいか、よく聞き取れない。誰だろう。


うわっ!


そこへ背後から別の叫び声がした。これは同僚の声だとすぐわかった。
その途端に眠気がすっと引いた。体を起こすことができたので愚痴が聞こえたほうを見たが、誰もいない。
背後の同僚はこちらを見て青い顔をしている。彼の話では、机に突っ伏したRさんにまとわりつくように、うじゃうじゃしたゴミの塊のようなものがあったのだが、それを見て思わず声を上げるとすぐに消えたのだという。
社長にこの話をすると面倒くさそうに手を振った。現場で変なもの拾ってきたんだろう。塩でも撒いとけ!
本当に塩を撒くと掃除が大変なので、とりあえず事務所の出入り口に盛り塩をしておいた。そのおかげなのかどうかはともかく、その後は何もなかった。