Mさんが自宅で仕事中のこと。
パソコンに向かってずっと作業をしていたが、肩こりがひどい。同じ姿勢で画面を見つめ続けているから目と肩がつらい。
一時間に一度くらいは立ちあがって体を動かすようにはしているのだが、それでも締め付けるような痛みが消えない。
その日何度目かの休憩中、左手で両目を押さえながら右腕を上に伸ばして肩を回していた。
すると右手の指先がざらりとした物をかすった。
なんだと思って見上げたがそれらしきものがない。
天井は立ち上がって腕を上げてもまだ届かないし、壁や家具も手の届く範囲にはない。動くものは自分だけだ。
何に触れたのか、よくわからない。
右手を見ると三本の指先に白く埃が付いている。埃っぽいものに触れたようだ。
そんなに埃っぽいものがこの部屋にあっただろうか。掃除はそれなりにしているはずなのだが。
おかしいなあ、と思いながらコーヒーでも入れようかと立ち上がり、もう一度真上を見ると、天井にうっすらと筋がついているのがわかった。
天井はたまにしか掃除しないから、表面を薄く埃が覆っているのだろう。そこに三本、指でなぞったような跡があった。
再び右手に視線が向いた。指先の埃は天井を触って付いたものなのだろうか。
しかし腕の長さが二倍以上に伸びない限り、座った体勢で天井に指が届くはずがない。
あの一瞬だけ、腕が伸びていたのだろうか?
それ以来Mさんは、自室で手を上に伸ばすときはつい視線も上に向いてしまうようになったという。
また天井まで手が伸びたりしますかと聞くと、Mさんは笑って首を横に振った。