追手

家族で山梨の温泉に行った人の話。
帰り道の途中で、長いトンネルに入った。交通情報でもよく名前を聞くような有名な所だ。
トンネルの中で、助手席の妻が少し身を乗り出すようにして言った。


なんか、壁から出てる。ほら。


そう言われて気付いたが、前を走っている車の左側に並んで何か白くて細長いものが見える。
目を凝らすと、妻の言うように確かにそれはトンネルの壁から突き出ているように思える。
しかし前の車もこちらの車も走り続けている。壁から突き出したものは車と同じスピードで移動しているらしい。
一体なんだろう? とよくよく見てみると、その細長いものの右側の端は更に幾つかの細い棒に分かれていた。


手だあれ……。


壁から突き出した腕が、前の車と並んで滑るように壁の上を進んでいる。前の車に触りたがっているように指先を伸ばしている。
腕はそのままずっと前の車の左側に見えていたが、ふっと消えたと思ったらもうそこはトンネルの出口だったという。