歩道橋の下

Kさんが車で通勤するルートの途中に、歩道橋の連続する区間がある。
ほんの数百メートルの間に三つの歩道橋が道路をまたいでいて、その下をKさんは毎日朝晩にくぐる。
田舎ではあるが幹線道路なので車の往来が多く、すぐ近くに小中学校もあって通学路にもなっているから歩道橋が整備されたらしい。


ある朝ここを通りかかると、歩道橋の下に何かが浮いているのが見える。
風に吹かれてゆらゆら揺れているが、ゴミか何かが引っかかっているのだろうか。
黒くて縦に細長い。歩道橋から紐かなにかで吊り下げられているようだ。
えっ、まさか首吊りじゃないだろうな。
ドキッとして一層目を凝らしたが、どうも人のようには見えない。
じゃああれは何なんだ、と訝しく思いながら歩道橋の下まで来た。すぐ下から見てもそれが何なのかわからない。
ただの真っ黒いかたまりだ。
訝しみながら通り過ぎた。それでもまだ今見たものが気になったので、次の歩道橋に差し掛かったときにバックミラーでちらりと後方の歩道橋を見た。
歩道橋は見えなかった。
そればかりではなく、リアガラスが全面真っ黒で何も見えない。
えっなんで、と後ろを振り向いたがガラスに変わったところはない。視線を前に戻したところでまた仰天した。
今度はフロントガラスの上半分が真っ黒になっている。外から何かで覆われているのか?
前が見えず、慌てて下から覗き込むように身をかがめつつブレーキを踏んだ。
直後にガラスの黒いものはふっと消えて、急に見通しがよくなった。急ブレーキを踏んだせいで後続車にクラクションを鳴らされた。あやうく事故になるところだったようだ。


歩道橋から吊り下がっていた黒いものと車のガラスを覆った黒いものが同じものかどうかはわからないが、それ以来Kさんはこの歩道橋の付近でスピードを落とすようになったという。