赤いジャージ

Kさんが当時付き合っていた女性と初めてデートに行った帰り道のこと。
食事をしてから夜景で有名な高台の公園に寄ったので、帰る頃にはもう夜10時を回っていた。
車で彼女を送っていく途中、市内の川にかかる橋にさしかかった。
その橋には平行して歩行者用の橋がかかっていて、車道の橋の方が少し高いので歩行者を見下ろす形になる。
車が橋に入ったところで、歩行者用の橋の向こう側から赤い服を来た人の一団がやって来るのが見えた。
距離がある上に暗いせいもあってはっきりとは見えないが、どうやら赤い服はジャージのように見えた。
そんな時間にジャージ姿の人が大勢で何をしているのかKさんは少し気になったものの、ハンドルを握っているのですぐにその人々から視線を移した。
すると今度は、助手席の彼女が「やだ、何あれ……」と呟く。
どうかした?と尋ねると、彼女は例のジャージ姿の一群を指差した。
それを見たKさんは思わずブレーキを踏んでスピードを落としてしまった。
先程より近くなってよく見えるようになったそれらは、確かに赤いジャージではあったが、その上にあるはずの頭がない。
袖の先には手もない。
街灯の光の下で、まるで透明人間が着ているかのように人の形をしたジャージだけがいくつも並んで橋の上を歩いていた。
あまりに変な光景なのでKさんは車を下りて歩道の方に行ってみたくなったが、彼女がとても気味悪がっているのでそのままスピードを上げて立ち去った。
そんなものを見たのはそれ一回きりだったという。