坊主頭

夕方のこと。
Tさんが彼氏と並んで歩いていると、彼が突然何かにつまずいたように転んだ。
一体何に足を取られたのかと下を見ると、半球状の黒いものが路面にある。バレーボールくらいの大きさだ。
見通しの良い歩道なのに、つまずくまでこんなものには気が付かなかった。
急に路面から生えてきたようにしか思えないくらいだったが、そもそもそれが何なのかよくわからない。
表面にザラザラした感じに短い毛がある。まるで坊主頭が半分ほど地面から突き出しているようだ。
ねえ、何これ?
Tさんは彼氏に問いかけたが、彼氏もさあ……と首をひねるばかり。
彼氏がそれを拾い上げようと手を伸ばしたとき。
クルッとその黒いものが反転し、こちらを向いた両目が二人を見上げた。
路面から突き出しているのは顔面の上半分だった。
まぶたに濃くアイシャドウを塗っている。
えっ、と彼氏が手をひっこめると、それは地面に吸い込まれるように消えた。


彼氏はその後一週間ほどひどい頭痛に悩まされた。
Tさんはそれがあの坊主頭につまずいたせいだとしか思えなかったという。