赤いランドセル

乳酸菌飲料の配達の仕事をしていたOさんの話。
配置換えで、それまで担当したことのない地域に初めて配達に行ったときのこと。
台地の上に造られている団地で、途中で十五分ほど曲がりくねった坂道を登っていく。
不案内なので車のナビを頼りに初めての道を辿っていったが、何度も上り下りを繰り返していて、一向に台地の上に出る気がしなかった。
しかしナビの示す通りに走っていれば遠回りだったとしてもいずれば目的地に着けるだろう、と思いながらゆっくり進んでいると、前方の道端に小学生の行列が見えた。
左手にコンクリートで固められた法面、右手にガードレールがある一本道だ。
みんな赤いランドセルを背負い、行儀よく一列に並んで道路の右側を歩いていく。
午前十時頃のことである。
――もう下校なのかな、今日は何かの行事とかで午前中だけだったんだろうか。
そう思いながら車を走らせ、小学生たちの姿がはっきりわかる距離まで近づいた。
赤い。
十人ほど列をなして歩いている小学生たちの、頭のてっぺんから手足の先まで、身体が全部真っ赤な色をしている。ランドセル以外もすべてが絵の具を塗ったように赤い。
それだけではない。
歩いているように見えた小学生たちは、足を動かしていなかった。
どの子も手足をまっすぐ伸ばして直立の姿勢をとったまま、路面を滑るように移動している。
うわっ、とんでもないものを見た!
Oさんはすぐにその子たちを追い越そうとアクセルを踏む足に力を入れたが、すぐに思い直してブレーキを踏み、静かに車を停めた。他の車がいないのを幸いに、そのまま路上で待った。
小学生の列は同じスピードのまま向こうへと去っていき、後ろ姿がどんどん小さくなる。
完全にそれが見えなくなってから、ようやくOさんは車を動かした。
それからものの数分で車は目的地に着いた。
翌週、同じ団地に配達に行ったときにはなぜか前回の半分ほどの時間で到着できたという。