友達の妹

高校生のFさんたちが学校帰りに友人の家に集まって遊んでいたときの話。
楽しく雑談をしていると、A君という友人の携帯電話が鳴った。
A君は部屋の端に立って電話に出たが、少し話しただけですぐに通話を終え、すまなそうな顔でみんなに言う。
「悪ィ、なんかすぐ帰んなきゃいけなくなったわ」
そう言い終わるか終わらないかのタイミングでドアチャイムが鳴った。
その家の友人のお母さんがドアを開けたようだったが、数秒してお母さんはA君を呼んだ。A君の妹が来ているという。
えっなんで来たんだ、と驚きながらA君は急いで部屋を出ていき、そのまますぐに帰っていった。
窓からは小学生くらいの女の子と一緒に歩いて行くA君が見え、彼は一度振り向いて友人たちがいる部屋に向かって手を上げてから歩き去った。
あいつ妹なんていたんだ、と友人の一人が言った。そんな話はFさんもそれまで聞いたことがなかった。
中学校からA君と同級生だった友人も彼の妹のことは初耳だという。
それに、小学生くらいの妹が友達の家にわざわざ迎えに来るのはどういうわけだろうか。急ぎの用事だったとしても、親が車で迎えに来るならわかるが、あんな小さい子どもが迎えに来たのでは余計に時間がかかりそうなものだ。
何となく腑に落ちないところはあったが、それ以上その件について気にすることもなく、それから二時間ほどして解散した。


翌日、A君は学校を休んだ。用事のためかと思いきや、熱を出して寝込んでいるという。
更にその次の日、A君はすっかり回復した様子で登校してきた。
二日前の夕方から体調を崩してずっと寝ていたという。
妹と帰ったあの後すぐか、とFさんが言うとA君は怪訝な顔をした。
「妹って誰の?」
誰のってお前のだろ、一昨日迎えに来て一緒に帰ってった――そう答えるとA君はとんでもないと首を振る。
「俺、妹なんていねえんだけど。それに一昨日は調子悪くて学校からまっすぐ帰ったんでお前らと遊んでねえし、何か勘違いしてねえ?」
話が全く噛み合わない。しかしFさんをはじめ一昨日一緒にいた友人たちは全員、女の子と帰っていくA君の姿を見ているし、一緒に遊んだ記憶も確かにある。
その一方でA君は一昨日一緒に遊んだこと自体を否定し、妹もいないと言い張る。
A君と同じ小中学校出身の他の生徒にも尋ねてみたものの、A君に妹がいるという話は聞いたことがないということだった。
ならば一昨日A君を迎えに来た女の子は誰だったのか、そもそも一緒に遊んだA君は本人だったのか……。


その後数日間は友人の間でA君に「今日は本物か?」と聞くのが流行ったが、やがてA君が本気で腹を立てるようになったので言わなくなったという。