遅刻

高校生のF君が寝坊して電車に大幅に乗り遅れ、学校に遅刻した。
学校に着いたときには既に二時限目が始まる直前になっていた。
授業が始まってしまってから教室に入るのは恥ずかしい。
授業開始時刻の数秒前に教室へと駆け込むと、後を追うようにチャイムが鳴った。
教室の中ではすでに生徒たちが整然と着席している。
慌てて入ってきたF君へ視線が集まった。みな不思議そうな顔でこちらを見ている。
だがそこにはひとつも知っている顔がない。
F君は背中にどっと冷や汗が吹き出すのを感じた。教室を間違えた!
入った時と同じくらいの素早さでドアの外へと身を引いたF君は、教室のクラス名を確認した。
……自分のクラスに間違いない。
おかしいな。じゃあ今いた奴らは誰なんだ?
もう一度教室の中を覗き込んだF君はそのままの姿勢で固まってしまった。
誰もいない。
教室の中にいたはずの知らない生徒たちはすっかり姿を消して、机と椅子だけがじっと並んでいる。
そういえば……とF君は気がついた。
その時間は生物の授業で移動教室だった。元々クラスメイトがそこにいるはずがない。
じゃあ今ここにいたのは一体誰だったのか。どうやってこんな一瞬でいなくなったのか。
F君はがらんとしたいつもの教室がどうにも気味悪く思えて、かといって生物室に遅れて行くのも気まずく、三時限目の始まりまで学校の近くのコンビニで時間を潰した。
三時限目の教室にはいつものクラスメイトが戻っていて、F君は心底ほっとしたという。