豪雨

高校の野球部が練習をしていたところ、午後二時を過ぎたあたりで急に空が暗くなり、やがて大粒の雨が落ちてきた。
グラウンドに砂埃が立つほどの強い雨で、とても練習を続けられる様子ではない。部員一同、慌ててグラウンドの隅の用具置き場の中へと退避した。
小さなプレハブの用具置き場は激しい雨音に包まれていた。部員たちの話し声もお互い聞こえないほどの轟音だ。
にわか雨だろうからすぐ止むだろう、と思いながら部員たちが待っていると、やがて雨音に交じって別の音が聞こえていることに気がついた。
「たかだー、たかだー」
高田と言えば野球部員の一人だ。誰かが彼を呼んでいる声が聞こえる。
呼ばれた高田君が用具置き場の扉から顔を出したが、雨のグラウンドに人の姿はない。
しかし呼ぶ声は続いている。
「たかだー、たかだー」
一体誰が高田君を呼んでいるのだろう。
そもそも用具置き場の中の話し声すら聞こえづらいような激しい雨音の中、なぜ高田君を呼ぶ声だけがこんなにはっきり聞こえる?
部員たちがどうにもこれはおかしい、と顔を見合わせているうちに雨脚は弱まり、やがてすっかり止んだ。
グラウンドに出てみると、激しい雨ですっかりぬかるんだ泥の上に、いつの間にか自転車かなにかのタイヤの跡がぐるぐると残されていた。
雨が降っている間はグラウンドに誰の姿もなかったはずなのに……。
その日の練習はそこで切り上げられたという。