ドリル

Bさんの自宅の裏手は崖になっていて、その上に物置や作業場に使っている小屋がある。
春先のある日、知人から古民家を解体したときに出た古材をいくらか分けて貰ったので、それを使って棚でも作ろうと、Bさんは崖上の小屋の前で作業をしていた。
鋸で切りそろえてから電動ドリルでダボ穴を開けていったところ、途中でドリルが停まってしまった。
バッテリーの充電が切れてしまったのかと思い、充電し直してから続きをやるかとドリルを傍らの台に置いたところで、チリンチリン、と背後で鈴の音が聞こえた。
反射的に振り向こうとしたのと同時に、ギュアアアア! と傍に置いたドリルが回転した。
背後よりもドリルに視線が向く。
さっきはトリガーを引いてもうんともすんとも言わなかったドリルが、触れてもいないのに動いている。
慌てて手に取ると、回転が停まった。トリガーを引いたがやはり動かない。
そういえばあの鈴の音は、と振り向いたが、もう聞こえなかった。
ただ、よく見ると背後の地面に、自転車のものらしきタイヤの跡がついている。
その小屋にはBさんの家から階段で上がってくるか、道のない薮の中から来るかしないとたどり着けない。自転車など通るはずがない。
どういうわけか、タイヤの跡はBさんの背後で折り返して崖に向かって消えていた。
ドリルがひとりでに動いたことと合わせて、何か変わったことが起きていたように思えたが、どういうことが起きていたのかはよくわからないままだった。