Uさんが五歳の甥と散歩に出かけた。
利根川の支流、小野川沿いを二人で歩いていると、川岸に繁った草むらの一部がガサガサ動いている。
何かいるのかと土手の上から眺めていると、草の中からヌッと顔を出したものと視線がぶつかった。
それが人かどうか、よくわからなかったという。
毛のない、ぬるりとした頭。
肩から下は草に隠れて見えないが、草丈からすると身長は甥より少し大きいくらいだろうか。
鼻や口がどんなものだったか、耳があったかどうか、後から思い返してもよく覚えていなかった。
ただまん丸な目の大きな瞳がじっと見つめてきた印象が強く残った。
ずいぶん長く感じられたが恐らくはほんの数秒間、互いに凍りついたように見つめ合ってから、不意に向こうが身を翻して飛び上がった。
ギャーッ!
鷺のような鳴き声を上げながら大人の身長くらいの高さまで一気に跳び上がり、そのまま水しぶきを上げて川へと飛び込んでいった。
大きな波紋が川面に広がっていったが、何も浮かび上がってこない。Uさんは甥の手を握ると急いで引き返した。
ねえあれ何、と甥は興奮していたが、Uさんにもわからない。河童じゃないかな、と出任せを言った。
家に帰って両親に川で見たものを伝えると、そりゃあ河童だわ、と口を揃えた。
よくわからないものについて出任せを言う癖は親譲りだなと、Uさんは我ながら呆れたという。