緑の棒

十年ほど前、Kさんが中学生の頃に通っていた塾で、授業中に何かの流れで先生がこんな話を始めた。


今日ここに来る途中で、変なものを見たんですよ。
車で走ってると、なんとなく視界の端に緑色のものがちらちら見えるような気がするんです。
気のせいかなと思いながら運転してたんですけど、やっぱり確かに緑色のものが見えるんです。
それで一体なんだろうと思って左を見ると、車のすぐ横に緑色の大きな棒みたいなものがある。
人くらいの大きさで、つるっとした細長い、明るい緑色をしたものが車の横を並んで進んでるんです。
何なのかはよくわからないです。
運転中だから横ばかりずっと見てるわけにもいかないんで、こうちらっちらっと何回か視線を向けるわけですけど、やっぱりよくわからない何かが横にある。
別にぶつかってきたりとかそういうことはないんですけど、変なものが横にいるのは落ち着かないんで、スピードを上げてみても同じ速さでぴったりついてくる。
これ塾まで付いてきたら困るなあ、と思ったのでちょっと遠回りしようかどうか迷ってるうちに、いつの間にかいなくなってたんですよ。何だったんでしょうね。


話のあとで授業は続きに戻った。
その先生は普段からい真面目な先生で、冗談のひとつも言わず、笑顔もあまり見せないような堅物だった。
それだけに突然そんな奇妙な話を始めたのが意外で、Kさんの印象にずっと残っているのだという。