行列のできる商店街

Bさんの家は商店街から路地を入ったところにある。
転職を機に知人の紹介で住み始めた家だが、買い物に便利なので気に入っている。裏通りなので買い物客の動線から外れていることもあって、住む前に心配していたほどうるさくないのもよかった。
この家に引っ越して半年ほど経ったある朝、二階の寝室の窓から外に目をやったBさんは意外なものを見つけた。
商店街に続く路地に、ずらりと人が並んでいるのだ。端が見えないが、みな商店街の方を向いて一列に並んでいる。
行列には老若男女混じっているが、二階から見下ろしているせいなのか路地が暗いせいなのか――あるいは元からそういうものなのか、みな顔が陰になっていて判別できない。
その路地に行列ができているところなどそれまで一度も見たことがなかった。
今日は商店街で何かのイベントでもやるのだろうか、と思ったが時計を見ると七時前である。コンビニくらいしか開いていない。
一体なんのために並んでるんだ? どうも気になる。
顔を洗ってからもう一度窓の外を見ると、先程の行列は姿を消していて、いつものひっそりとした路地が伸びているだけ。あの人数が、顔を洗ってくるほんの数分でいなくなるのはおかしい。これはどういうことなのだろうか。
行列を見たときになんとなく持っていた違和感にも気がついた。あれだけの人数が並んでいて、誰も雑談ひとつしてせず、ざわつきがまるでなかったのだ。葬式のほうがまだ賑やかというくらい、誰一人口も聞かずに黙って並んでいた。

 

その日の夕方、Bさんはよく行く近所の定食屋で夕食を取りながら、店のおばさんに朝見たものの話をした。
するとおばさんはこともなげに言う。ああ、たまにいるんだよねえ。すぐいなくなるから、気にしなくていいよ。
どういうことです、あれなんなんですかと尋ねると、おばさんはもう一度気にしなくていいよとだけ言って引っ込んでしまった。
その反応から、あれはどうやらまともなものではないらしいと察した。
Bさんはその後も五年ほどの間に二度その行列を見た。次に出たら写真に撮ってやろうと思って寝る前に携帯を窓の側に置くのだが、視線を外したところですぐいなくなるので撮れなかったという。