並ぶもの

Kさんは高校生の頃、社会人の男性と付き合っていた。
彼の住むアパートを訪ねたある日、夕方に二人で近所のコンビニまで行った。
部屋に戻る途中に車の販売店があり、ガラス張りのショーウィンドウがある。
そのガラスに映った自分たちの姿を何気なく見たKさんだったが、違和感を覚えて視線を逸らせなくなった。
ガラスの中の自分の前後に、行列が見えるのだ。しかし実際自分の近くには彼がいるだけで、前後に誰も並んでなどいない。
並んでいるのはみな若い女性だ。こちらからは横顔しか見えないが、みな無表情のようだ。
Kさんがまじまじと注視しているので彼もガラスに目をやったが、特に気にした様子もなく視線をKさんに戻した。何見てんの? と穏やかに聞いてくる。どうやら彼には見えていないらしい。
私にしか見えてないの、と慌てたKさんは言葉を濁してその場を後にした。
部屋に帰って買ってきたもので夕食を済ませた後のこと。
彼がトイレに入っている間に彼の携帯が鳴った。電話だよ、と彼に声をかけようとしたとき、着信音が止んだ。
「はい、――です」
誰かが電話に出た声がする。女の声だ。
目の前には誰もいない。携帯の表示を見ると通話中だ。誰と誰が話しているのか。
彼はまだトイレから出てこない。
先程の行列のこともあり、急に怖くなった。トイレのドアに向かって、もう帰るねと呼びかけて返事を待たずに部屋を飛び出した。
その彼とはそれから半年ほど後に、彼の浮気が原因で別れた。


気になっていることがひとつあるという。
あのとき電話に出た声が何と名乗ったか、はっきり聞いていたはずなのにどうしてもその名前が思い出せないらしい。
知らないままのほうがいいのかもしれないけど、とKさんは語った。