釣れるポイント

Wさんという高校生が友人と二人で市内の川に釣りに行った。
そこは大きいブラックバスがよく釣れるポイントだと人から聞いた場所で、葦が群生している岸の辺りなどは魚が潜んでいそうな雰囲気が確かにあった。
ところが釣り始めてみると、何かおかしい。釣れるかどうかということではなく、周囲に人の気配を感じるのだ。
見回しても、友人とWさんの他には近くに人の姿がない。
しかしじっと釣り竿を握っていると、背後で誰かが草を踏む音がする。仕掛けを変えようと足元の道具箱に視線を落とすと、誰かの影が一瞬だけ視界をかすめる。
しかし振り向いても誰もいない。見えないのに、すぐ近くに誰かがいて歩き回っているような感覚がある。
見えない以上は気のせいかも知れないので、友人にはそのことは言わないで釣りを続けた。一時間ほどで二尾釣り上げた。
それから友人がちょっと休憩しようというので、近くのコンビニに向かった。飲み物を買って店の前で飲んでいると、友人がポツリと言った。
あそこさ、なんか変じゃねえ?
友人の話によると、釣りをしている間ずっと、足元に何かの動物がまとわりついてくる感覚があったという。大きさや動きかたは犬のようで、荒い息遣いまで感じたが、目を向けると足元にも周囲にもそれらしきものはいない。
おかしいと思いつつ釣りを続けるとまた足元に何かが絡んでくる。その繰り返しだったという。
友人の話に驚きながら、Wさんも自分の感じていたものを打ち明けた。友人も話を聞いて驚いたようで、しばし二人顔を見合わせて黙り込んだ。それからどちらからともなく、もう帰ろうということになった。


後から考えると、そもそもその場所がよく釣れるポイントだと誰から聞いたのか、全く思い出せないのだという。