白いワンピース

Rさんの娘が小学生の頃のこと。小学校への通学路の途中に、一軒の空き家があった。
人が住まないまま何年も放ったらかしになっているようで、壁や屋根が一部破れているのが道から見てもわかる。どんなタイミングで更に崩れるかわかったものではない。実際、台風のあとには壁の穴が大きくなっていた。
娘が毎日通う道にそんな廃屋があるのは危なくて心配なので、同じ地区の人にもその家について何度か尋ねてみた。聞くところによると町内会でも何度か問題になった物件ではあるのだが、持ち主と全く連絡が取れないのでそのままになっているのだという。
そんなある日、Rさんの夫が仕事から帰るなり、こんなことを言った。
車で帰宅する途中、例の廃屋の前を通った。するとちょうどその廃屋の玄関から誰かが出てくる姿が、車のヘッドライトに照らされた。
白いワンピースを上品に着た老婦人だ。廃屋の持ち主か、その関係者だろうかと思った。
そこで夫はあることに気づいて首をひねった。廃屋の壁に穴がないのだ。いつの間にか修復されている。
視線を戻すと老婦人の姿はもうなかった。


――修復なんて、いつの間に? あんな廃屋を直したの?
夫から話を聞いたRさんはどうも腑に落ちないので、翌日の朝に見に行ってみた。
しかし夫の話に反して、壁も屋根も破れたままの外観だ。夫の見間違いだったか。
立ち去ろうとしたRさんだったが、少し変なものが見えた気がしてもう一度廃屋に目をやった。
壁に空いた穴の、その向こうの室内。
奥の壁に、大きな額が掛かっている。十数人が二列に並んだ集合写真のようだ。
外からだと詳しく見えないが、並んで写っている人がみんな白い服を身に着けているように見える。
夫の話を思い出した。この廃屋の玄関から出てきた老婦人は、白いワンピースを着ていたという。
写真の中の人々が着ているのはワンピースのように見えないこともない。ただ、近寄って確かめる気にはなれなかった。
今にも玄関から白いワンピース姿の老婦人が出てくるのを想像して、Rさんは足早にそこを立ち去った。


どういう経緯があったかは知らないが、それから程なくして廃屋の解体工事が始まった。
十年ほど経った今もそこは空き地だという。