肩紙

何がきっかけでどういう原因があったのか、全くわからない出来事だったという。
Fさんがある朝家を出ると、肩が急に重く感じられた。
ダンベルでも肩に乗っているようなはっきりした重さだったが、肩に手をやっても目で見ても何もない。
疲れが溜まっているのだろうか、それとも何か病気の症状だろうか。
不安に思いながら車で職場へ向かったが、車を降りると肩が軽くなっている。
先程の重さは一体何だったのだろうと不思議に思ったが、楽になったのでそれ以上気にせずその日はいつも通り仕事をした。
次の日の朝もその次の朝も、Fさんは家を出たところで肩が重くなった。
いずれも職場に着くともう楽になっているのだが、原因がわからないので気味が悪い。
病院で診てもらったほうがいいだろうか、と考えているところで後ろから同僚に声をかけられた。
肩に何かついてるぞ。そう言って同僚がFさんの右肩を手で軽く払った、その途端。
ビリリィッ!
肩のあたりで変な音が聞こえた。束ねた紙をまとめて引き裂くような。
はっとして振り向くと、肩を払っていた同僚もそのままの姿勢で固まっている。彼にも音が聞こえたようだ。
しかし何の音なのかわからない。周囲に紙を破いていた者はいない。破れた紙もない。
確かに肩のあたりから音が聞こえたが、肩にも変わったところはない。痛くも痒くもなかった。
音の出処がわからない。
そういえば、とFさんは同僚に尋ねた。俺の肩に何がついてたんだ?
いや、シールか何かがついてたんだけど、どこ行ったのかな、と同僚は足元やFさんの周りに目を走らせている。
Fさんも見回したが、それらしきものはなかった。
肩が重くなったのは結局その三日間だけだった。