祭囃子

大学生のFさんがアパートの自室で課題のレポートを書いていた。
ヘッドフォンで音楽を聴きながら作業していたのだが、ふと気づくとどこからか祭囃子らしき音が聞こえる。
初めはそれほど気にせずレポートの方に集中していたのだが、だんだん聴いているポップスとミスマッチに思えてきた。
リズムも音も全く合わない。それが一度気になり始めるともう気が散って仕方がない。
しかし時刻は夜の二時。祭りの季節ではないし、仮に祭囃子の練習をしているにしても遅すぎる。
一体どこから聞こえてくるのだろう、とヘッドフォンを外すと部屋の中は静まり返っていて、冷蔵庫のモーター音くらいしか聞こえない。
あれ、終わったのかな。
拍子抜けした思いでまたヘッドフォンを着けたFさんだったが、すると再びかすかな祭囃子が聞こえてきた。
何なんだ一体、とヘッドフォンを外すとやはり聞こえない。
嫌な予感がしてもう一度、恐る恐るヘッドフォンに耳を当てると、聴いていたポップスに混じって確かに祭囃子が鳴っている。
しかしその時Fさんが聴いていた曲に、そんな祭囃子のような音が入っているはずがない。
何なんだ一体、と一旦プレーヤーの再生を停めたFさんだったが、停まったのはポップスの方だけで祭囃子は鳴り続けている。
はあ!?
訳が分からず、深夜で眠気も手伝って一気に不機嫌になったFさんは、ヘッドフォンをベッドに叩きつけると洗面所に行って顔を洗い、音楽を聴くのは諦めてレポート作成の続きをすることにした。
明け方近くにようやくレポートは完成したが、それから改めてヘッドフォンに耳を当てるともう祭囃子は止んでいたという。