重い音

Wさんの高校生の長女が交通事故に遭い、全治六週間の怪我で入院した。
腕と脚の骨折という大怪我で、命に別状なかったのが不幸中の幸いだった。
ただ、事故の翌日あたりから家の二階で不可解な音が聞こえるようになったのだという。
夜、Wさん夫婦が居間で食事をしていると二階からズシン、と重い音が響いてきた。
高い所に置いてあったものが何かの拍子に落ちたのだろうか。
二階にはWさん夫婦の寝室と長女の部屋と物置部屋がある。寝室と物置を見たものの特に物が落ちた様子はない。
それでは長女の部屋だろうか。普段は無断で入ることはしないが、部屋の主が不在中のことで、確認のために中を見ることにした。
しかしそこも特に何かが落ちたり崩れたりした様子は見受けられなかった。
まさか屋根の上のことだろうかとも疑ったが、翌朝見上げてみても屋根に変わったところはない。
あるいはどこか他所から響いた音が二階でしたように感じられただけなのだろうか、とも思ったWさんはそれ以上追求しなかった。
しかしその後も二日に一度くらいの頻度で二階から重い物を落とすような音がはっきりと聞こえてきた。
聞こえる時間はまちまちで、深夜のこともあれば朝のこともあった。
ズシャッとか、ズシッ、といった感じのまるで中身の詰まった米袋か砂袋を乱暴に置いたような音で、それもどうやら長女の部屋の中から聞こえてくるようなのである。
長女の部屋の隣がWさん夫婦の寝室だが、一度はWさんが布団に入ったちょうどその時に隣の部屋からドシンと聞こえてきた。音だけでなく、床や壁もわずかに振動するのがわかったという。
しかしすぐに長女の部屋へ行っても何も変わった所がない。
一体部屋の中で何が起きているのか。音の原因を突き止めようとWさんは長女の部屋のドアを開けっ放しにして頻繁に中を覗くようにしたものの、例の重い音は決まって部屋から離れている時に聞こえた。やはり部屋の中にも外にも変わったところはない。
業を煮やしたWさんは、いっそのこと長女の部屋に監視カメラを設置して音の出る瞬間を確かめてやろうかとも思ったものの、そうこうしているうちに長女が退院して帰ってきた。
それを境にあの重い音はぷっつりと止んでしまったので、監視カメラの件は立ち消えとなった。
不在の間のことなので、長女には謎の音については知らせていないという。