茶鳴り

高校生のEさんが放課後の教室で友人と話していた。
そこへもうひとりの友人がやってきて会話に参加してきたが、すぐに怪訝な表情でこう言った。
なにか鳴ってない?
携帯かな、と確かめてみるが特に着信も通知もない。
いやそうじゃなくて、なんかお祭りみたいな、と友人は首をひねる。
Eさんたちも耳を澄ましてみた。
外で運動部が練習する掛け声、音楽室で吹奏楽部が練習する音、廊下で響く足音。
そんないつもの放課後の音に混じって、確かに祭囃子の笛や太鼓のような音がする。吹奏楽部の鳴らす楽器とは違い、もっと近くから聞こえる。
音するね、なんだろ。Eさんたちが聞き耳を立てて探すとすぐに音の出どころがわかった。
目の前の机に置いてあるペットボトル。Eさんが校内の自動販売機で買ったものだ。飲みかけのミルクティーが入っている。
ここからかすかに祭囃子が鳴っている。
どういうこと?
Eさんたちはそれぞれ耳をペットボトルに近づけた。確かにペットボトルから音が出ているようで、これに耳を近づけたときが一番はっきり聞こえる。
何これ不思議、なにかに共鳴したりしてるのかな。全部飲んだら音変わったり聞こえなくなったりするかな。
友人がそう言うのでEさんは残っていたミルクティーを飲み干した。
空になったペットボトルはまだ鳴り続けている。パッケージのビニールも剥がしてみたが何の変哲もない単なるペットボトルだ。
なにかに共鳴しているのだとしても、周囲に同じような音がない。ペットボトルからははっきり笛太鼓、鉦を鳴らす音がする。少なくとも市内の祭りでは聞いたことのない曲だ。
なんでだろうね、と話しているあいだにだんだん音が遠くなり、じきに聞こえなくなった。
どこで笛吹いたりしてたんだろ、とEさんが言うと友人は二人揃って首を傾げた。
笛なんて聞こえなかったでしょ。二人ともそう主張した。
友人たちに聞こえていたのは、お神輿を担ぐような大勢の掛け声と歓声だという。
Eさんにはそんなものは全く聞こえていなかった。どうして聞こえていたものが違うのか不思議だった。
少し迷ったが、ペットボトルはすぐ捨てたという。