テレビの中

Uさんという女性は二十三歳の時に結婚して翌年女の子を授かったが、その頃から夫の行動がどこかおかしいと思い始めた。
仕事が長引いたと言って帰りが遅くなることが多くなり、休日もあまり家にいない。
結婚したての頃はそんなことはなかったのでだんだん怪しむようになったUさんだったが、案の定夫は浮気していた。相手は夫の同僚の女。
結局それが理由で半年後に別居、やがて離婚することになった。
幼い娘を抱えたUさんは実家に戻り、昼間は両親に娘を見てもらいながら働いた。
そうして娘が五歳になった頃のことである。
ある夜、ふとUさんが目を覚ますと一緒に寝ていたはずの娘がいない。
トイレに一人で行けるようになったのだろうか、と思い様子を見に行ったが、トイレには誰もいない。
どこへ行った?と探すと真っ暗なリビングのテレビの前に娘がちょこんと座っている。
娘は何かぶつぶつと呟きながら、スイッチの入っていないテレビをじっと見つめていた。
ねえ、どうしたの?とUさんがうろたえながら声をかけると、娘はテレビを指差して言う。
「パパがいるの」
テレビ画面には何も映っていない。どういうことだ。
しかも離婚したのは娘が二歳の時で、それから一度も元夫には娘を会わせていない。なぜ娘が父親の顔を知っているのか。
パパって……パパの顔知ってるの?
Uさんがそう聞くと娘は首を横に振った。
「テレビの人がパパって言った」
Uさんははっとした。もしかしてあの人の身に何かあったのだろうか。
これからも責任を取ってもらうつもりなのに、事故や病気になってもらっていては困る。
しかし翌日元夫に連絡を取ってみると、特に変わった様子は無かった。特に用もないのに電話するなと文句を言われる始末だった。
じゃあテレビの中に見えたというのは何だったのだろう。念のため娘に元夫の写真を見せてみた。
すると娘はテレビの中にいたのは違う人だったという。
尚更わけがわからなくなった。


その後も月に一度か二度くらいの割合で娘は真夜中に起きだし、テレビの中に「パパ」がいると言い出した。
Uさんは医者に相談するべきか迷ったが、娘が小学二年生になる頃にはそういうことはほぼ無くなって、娘自身も「テレビにパパがいる」と言っていたこと自体をすっかり忘れてしまったという。