報せ

Fさんが独身の頃に住んでいたアパートでのこと。
日曜日の午前中にゆっくり寝ていると天井からコツコツと音がする。
その部屋は二階の角部屋で、上はすぐ屋根だ。だから時々ハトだかスズメだか、野鳥が屋根の上を歩いているらしき足音が聞こえることはあったが、その時の音は少し様子が違った。
鳥の足音にしては間隔が長く、重い音だからどうも人間が屋根を歩いているように思える。
管理人からは何も聞かされていなかったが、屋根の修繕でもしているのだろうか。大した騒音でもないのでFさんは気にせずに寝ていることにした。
すると数分のうちに足音はどんどん増えていき、屋根の上を何人もの人間が忙しなく歩いている様子が伝わってきた。
流石にそうなってくると寝ていられないくらいにはうるさい。
そんなにうるさくなるようなら管理人からは前もって伝えて欲しかったし、どうせなら仕事に出ている平日のうちにやって欲しかった。
仕方なく布団から出て顔を洗っていると、上から響いてくる音は更に賑やかになってきた。
ダンッ、ダンッ、ダンッ!
何かの作業をしているという様子ではなく、屋根の上で走り回っているようにしか思えない。
しかし屋根の修繕で走り回るはずもない。
一体何をしているんだ?屋根の手入れじゃないのか?
心配になったFさんは部屋を出て階段を降り、アパートの前の道路に出て屋根を見上げた。
……誰もいない。
じゃあさっきの音はなんだ?
そういえば、部屋を出た時からすでにあの音を聞いた覚えがない。
全く腑に落ちなかったが、仕方がないのでまた階段を上って部屋に戻った。
ダンッ、ダンッ、ダンッ!
ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ!
ドアを開けると先程と同様に上から大きな足音がこれでもかというほど響いている。
だがたった今見てきたように、屋根の上には誰もいなかった。
じゃあこの音は一体何の音なんだ?なんで部屋の外だと聞こえないんだ?
どういうことなのか全く判断できなかったが、とりあえず管理人を呼ぶために部屋の前に出て携帯電話を取り出した。
部屋の外だとやはりほとんど足音が聞こえない。
不思議なこともあるもんだ、と携帯電話を耳に当てながら何気なく隣の部屋に目をやると、ドアの隙間からほんのりと白い煙が出ている。
火事だった。
外出中だった隣の住人の煙草の不始末が原因だったが、発見が早かったせいで布団と畳が黒焦げになっただけで済み、他の部屋への被害は大してなかった。


火が消されて野次馬もいなくなり、ほっと一息ついてFさんが部屋に戻ると、あれほどうるさかった上からの足音はすっかり静まっていた。
あの足音のお陰で火事に早く気付けたのはよかったが、結局何の音だったのかはさっぱりわからないままだった。
もしかすると火事を知らせてくれていたんだろうか。でも、誰が?
Fさんはずっと気になっているのだという。