点滅

Fさんの中学1年生の娘が風邪で高熱を出した夜のこと。
深夜にトイレに行きたくなって起きたFさんがふと娘の部屋の方を見ると、ドアの隙間から漏れる光が目まぐるしく点滅している。廊下は暗いから部屋の中で明かりが点いていればよく見えるのだ。
あいつ、昼間に寝てたから眠くなくて起きてるんだな。
Fさんは寝るように注意しようと、足音を立てないように近づいて娘の部屋のドアを開けた。
すると暗い部屋の中で何かが足元にバサァ、と落ちた。
手探りでドアの近くのスイッチを押すと明かりが点いて、足元に落ちているのが娘の学校の制服だとわかった。
当の娘はベッドに横になってFさんの方を見ていたが、すぐに声を上げて泣き出した。
娘が落ち着くのを待ってから話を聞くと、こういうことがあったらしい。


夜中にふと目を覚ますと、部屋の中が明るい。誰が明かりを点けたんだろうと思ったところで、ドアの前に誰かが立っていることに気がついた。
同じ学校の制服を着ている。誰なの、と思ってよく見るとその顔は紛れもなく自分だ。
立っている自分は全くの無表情で、視線を上げてじっと天井を見上げている。
しかも奇妙なことに制服は上半身だけで、腰のところで途切れていて下半身がなにもない。
脚があるはずのあたりは向こう側にあるドアが見えている。
上半身だけの自分が浮かんでいるのだ。
これは夢かな、熱のせいで変な夢を見ているんだろうかと思いながらぼんやりそれを眺めていると、天井の蛍光灯が点滅を始めた。
始めは三秒ほどの間隔でゆっくり点いたり消えたりしたのが、だんだん間隔が短くなって目まぐるしい速さで点滅するようになった。
点滅する光の中で上半身だけの自分はじっと浮かんだままだ。気持ち悪い。
もうやめて、夢なら早く覚めて、と祈ったところで突然ドアが開いて部屋が暗くなったという。


Fさんは娘の話がすぐには信じられなかった。熱に浮かされて怖い夢でも見たんだろうと考えた。
だが、娘の部屋の明かりが点滅していたのも、制服がドアのすぐ側に落ちていたのも娘の話と一致する。
天井の蛍光灯のスイッチはドアの横にしかないから、部屋の奥でベッドに寝ていた娘に、Fさんが部屋に入る直前までそれを操作することは不可能に思えた。
娘の話の通り、部屋の中で何かおかしな現象が起きていたのだろうか?
娘は怖がっている様子だし、まだ熱もある。そのまま一人で寝かせておくのも心配だった。
とりあえずその夜はFさん夫婦の寝室にもう一組布団を敷いてそこで寝かせたという。