マンホールの中

高校生のNさんが下校中、どこかから叫び声が聞こえてきた。
只事ではなさそうなので声のした方に駆けつけると、すぐ近くの路地でランドセルを背負った小学生が倒れている。
慌てて近寄ったところ、その男の子は泣きながら言う。
「手が、手が」
よく見てみるとそこにはマンホールがあり、蓋が少しずれている。
ずれた蓋の隙間に、その子の左腕が肩から全部入っている。
腕がどうしたの?抜けないの?
Nさんがそう聞くと、男の子は涙でぐしゃぐしゃの顔で頷いた。
「腕掴まれて、引っ張られてる!」
マンホールの中は蓋に隠れて見えないが、中に誰かいるのか。
変質者がこんなところに隠れていて、小学生を引っ張り込もうとしている?
とにかくこの子を助けなければ、と思ったNさんは大声で助けを呼びながら男の子の腹に腕を回し、力一杯引っ張った。
数分間は穴の中に引っ張る力を感じたものの、すぐにNさんの力の方が勝ち、ズボッと男の子の腕がマンホールから抜けた。
その直後、ずれていたマンホールの蓋はひとりでにガラリと閉じてしまった。
安堵のためか、大声で泣きだした男の子をなだめながら彼の腕を見てみると、手首のあたりが妙につやつやしている。
よく見てみると、ナメクジが這った跡のように粘ついた液がべっとり付いていてとても泥臭かった。


近くの公園に移動してから何とか男の子を落ち着かせて話を聞いてみると、こういう経緯だったという。
男の子が学校の帰りにふと近道をしようとして、いつもとは違う路地に入った。
しばらく歩いていると、足元のマンホールからガタガタ音が聞こえてきた。
不思議に思ってしゃがみこんで見ていると、突然蓋が開いて中から真っ黒な手が飛び出し、左手首を引っ張りこまれてしまったのだという。