二時に来る

マンションの自室で眠っていたEさんが真夜中にふと目を覚ました。
布団に横になったまま時計に目を凝らすと、ちょうど夜の二時。寝付いてからまだ二時間ほどだ。
どうして目が覚めてしまったのかはわからないが、再び眠ろうと目をつぶったところで突如大きな足音が聞こえた。
足音はあっという間にすぐそこまで近づいてきたかと思うと、暗い部屋の中に誰かが飛び込んできた。
あっと思う間もなく、その誰かは勢いよく部屋を横切り、Eさんの寝ている上を一またぎに跳び越えて、その勢いのまま壁に吸い込まれるように見えなくなった。
わずか数秒の出来事である。
ええっ!?
うろたえながら身を起こしたEさんは部屋の明かりを点け、部屋の中を確かめてみたが特に荒れているところはない。玄関や窓もすべて施錠されていたから誰かが入ってこれるはずはなかった。
一体あれは何者だったのか。暗い部屋の中だったからその姿は真っ黒だったが、それほど長身には見えなかった。
しかしよく振り返ってみると、もしかしたら夢だったかもしれない。誰かが部屋に入れたはずがないし、壁に吸い込まれて消えたのも現実とは思えない。
早く寝てしまいたかったEさんはとりあえず夢だったと結論づけて、また布団に入った。


その数日後、また同じことが起きた。
真夜中にはっと目を覚ましたEさんは、数日前と同様に時計を見て、二時ぴったりなのを見た瞬間に嫌な予感がしたという。
その途端にまた足音がはっきり聞こえてきて、部屋に飛び込んできた誰かがEさんを跳び越えて壁に消えた。
前回と全く同じだ。
もしかしてこれは夢ではないのだろうか。
しかし今回も戸締まりは確かにしてある。生身の人間とは思えない。
Eさんは考えた結果、市内の神社から御札を貰ってきて、壁に貼ってみることにした。


更に一週間ほど経った真夜中、Eさんは例によって目を覚ました。
来たか、と思って時計を見るとやはり二時ちょうど。
すぐに足音が近づいてきて思わずEさんは布団の中で身を固くした。
足音が部屋に入ってこようというその瞬間、ドガン! というもの凄い音が響いて揺れが伝わってきた。
壁に何かが勢いよくぶつかったような様子だが、御札を貼ったちょうどそのあたりだ。
それきり部屋はしんと静まり返って、誰かが部屋に入ってくるということもない。遠ざかっていく足音もない。
恐る恐る起き上がって明かりを点けたEさんは部屋の中を確認してみたが、不審な誰かの姿は見当たらなかったし、何かが倒れたり崩れたりした様子もなかった。
それ以来は夜中の二時に目が覚めることも、誰かが飛び込んでくることもないという。