帰ってくる妹

夕方、高校生のMさんが学校から帰宅すると、まだ家族は他に誰も帰ってきていなかった。
夕飯までに宿題を進めておくか、とリビングのテーブルにノートを広げると、それから程なくして玄関が開く音が聞こえてきた。


「ただいまー」


廊下からリビングに入ってきたのは妹で、そのまま台所に行き、飲み物を入れたカップを持ってリビングのソファに腰を下ろした。
今日は妙に静かだな、と思いながら宿題に視線を戻したMさんだが、数秒してふと気づくと妹の姿がない。
トイレにでも行ったのかとも思ったが、部屋を出ていくような足音どころか、妹が立ち上がる気配すら感じなかった。
いつの間にか消えていたような感覚で、どうにも腑に落ちないMさんはトイレや妹の部屋を確かめてみたが、誰もいない。
玄関を見ると妹の靴もない。台所に行ってみると妹のカップは戸棚の中で完全に乾いていて、たった今使ったようには思えない。
それじゃあたった今帰ってきたあいつは何だったんだ、と混乱しながらリビングのテーブルに戻ったMさんだったが、それからすぐに玄関が開く音が聞こえた。


「ただいまー」


先ほどと同じようにそう言ってリビングに入ってきたのはまたしても妹だった。
――お前、さっきも帰ってきたよな?
Mさんがそう尋ねても、妹は何も反応しないままリビングを通り過ぎた。台所へ行って先ほどと同様にカップに飲み物を入れて戻ってくる。そして同じようにソファに座り、ゆっくりとカップの中身をすすっている。
どう見ても妹本人なのだが、しかし行動が先程いなくなった時と全く同じなのが奇妙だった。
本当に妹が帰ってきたんだよな? と疑問に思ったMさんはもう一度玄関で靴を確認してみた。
妹の靴は……ない。
まさか!? とリビングに戻ると、妹の姿はなかった。家のどこを見てもいない。
何なんだこれ……。


それから三十分ほどして帰ってきた妹は今度こそ本物のようだった。靴もちゃんとある。
だが、今に消えるのではないかとMさんはそれから数日間心配しながら過ごしたという。