宅配業者で働いていた人の話。
夜九時頃、その日の配送を終えて営業所に戻る途中のこと。
いつもは車が多い国道を通ったが、その時は不思議に他の車が一台も走っていない。
珍しいなあと思いながら走っていると、やがて横道から一台の車が前に出てきた。
赤いラインの入ったタクシーらしき車だ。
あの色、見覚えないけどどこのタクシーかな?
後ろ姿を見ながら数分間走っていたが、突然前のタクシーがスピードを上げ、とんでもない勢いで遠ざかっていく。
――いくら他の車がいないったって、あれじゃ事故るぞ!
するとタクシーの赤いテールランプがスッと舞い上がり、そのまま電柱を、更には高圧電線を飛び越えて、向こうにある山の中腹で見えなくなった。
飛んだ!? ……そんなバカな!
狐につままれたような気持ちのまま車を走らせ、営業所に戻ったところ、また奇妙なことに気がついた。
時刻が合わないのだ。最後の荷物を届けてから営業所に戻ってくるまで二十分ほどかかっているのに、時計の時刻は最後の荷物を届けた直後のまま。時計が壊れたのかと携帯を見ても、営業所の時計を見ても、みな同じ時刻を示している。
まるで一瞬で営業所まで帰ってきたかのようだ。
しかし実感としては確かに二十分かけて車を運転してきたし、途中で見たものもはっきり覚えている。辻褄が全く合わない。
あのタクシーを見たから時間がずれたのか、それとも全く別の問題なのか?
それ以来、タクシーの後ろを走る時は少し緊張してしまうようになったという。