高架下

Wさんは大学生のころ、大学と同じ市内に下宿していた。下宿から大学までの道は途中でJRの高架と交差していた。
この線路は単線なので下をくぐるのもごく僅かな距離だけだったが、高架下には鬱蒼と草が生い茂っていつも薄暗く、あまり気分のいい場所ではなかった。
ある夏の夕方、大学から帰る途中のWさんはいつもと同じようにこの高架をくぐった。
すると線路を境にして急に気温が下がったように感じられた。線路の向こう側は蒸し暑かったのに、こちら側は肌に染み付くような冷気がある。
これは寒冷前線か、そうするとにわか雨が来るかな。
そう思ったWさんは降り出す前に帰ろうと、先を急いだ。下宿に着いてもまだ雨は降り出さなかったが、その一方で寒気はまだ去らない。
家に入ってもこんなに寒いのはおかしい。まさか熱が出てるのか?
しかし体温を測ってみても平熱である。どういうことだろうか。
なんでこんなに寒いんだろう……?
そう独り言を漏らしたその時、ガタガタッと窓が鳴った。
反射的にそちらを向くと、窓ガラスの外に人が張り付いているのが見えた。
小学生くらいの、髪の短い女の子だ。しかし厚みがほとんどないかのように、ガラスにべちゃっと張り付いて無表情にこちらを見ている。
目が合った。
あっと叫び声を上げるよりも早く、それはズルッと下にずれて見えなくなった。
途端に体中がまとわりつくような暑さに包まれ、汗がどっと吹き出した。
あいつがいたから寒かったのか……?
あの線路下からついて来た……?


それ以来大学へは少し遠回りして、あの高架下は通らないようにしたという。