川の中

釣りが趣味のNさんは、夏休みに遊びに来た甥を連れて隣町の河原に出かけた。
甥と並んで釣り糸を垂らしていたが、小学一年生の甥はすぐに飽きてその辺の石や草を投げたりちぎったりして遊び始めた。
一緒に行くと言うから連れてきてやったのに……釣りはまだこいつには早かったかな。
苦笑しながら何匹か釣り上げたNさんだったが、そうしているうちに甥が何かに気付いたように川に目を向けた。
何やら面白そうに笑って、水面に向けて手を振っている。
――どうした、何か面白いもん見つけたのか?
Nさんが問いかけると甥は川を指差して言う。
あそこで手ぇ振ってる。
手? 川の中で?
甥が指差す方に目をやると、暗い水中に何か白っぽいものが動いているのが見えた。
魚ではない。
確かに水中で誰かが手を振っている。……ように見えるが、一体あれはなんだ。
誰かが川に潜っているにしては、肘から先の部分しか見えない。肘から先がはっきり見えているのに、その他の胴体や頭がない。
更には、水面のすぐ下で大きく手を動かしているのに、波が立っていないのも奇妙だ。川面には規則的な波だけが揺らめいていて、腕が水を掻いている様子がない。
これは見ないほうがいいやつじゃないのか……?
このまま見ていたらもっと増えたり、あるいは……。
ぞっとしたNさんは釣った魚を川に流すと、まだ水面を面白そうに眺める甥を引っ張ってその場を後にしたという。