諏訪様

Nさんの住む街に諏訪神社があり、諏訪様と呼ばれて地域住民に親しまれている。
諏訪様の社殿は台地の縁に建っていて、参道は三百段以上ある長い階段になっている。
階段の左右は森になっていてそこを上がりきった境内も森に囲まれているから、昼でも薄暗いし夜ともなれば闇が深い。
Nさんが大学生のとき、友人たちと外で夕飯を食べた帰りに諏訪様の前を通りかかった。
誰が言い出したか、ちょっと諏訪様に寄っていかないかということになった。
別に幽霊が出るとかいう噂があったわけでもないが、夜の諏訪様は参道からして真っ暗だ。ちょっとした肝試しのつもりで石の鳥居をくぐって階段を上り始めた。
Nさんと二人の友人は暗い足元を携帯電話の明かりで照らしながら上っていったが、なかなか階段が終わらない。
暗くて先が見えないからいつもより長く感じられるのかと思っていたが、それにしてもいつもの二倍くらい上っているように感じられる。
何だか変だな、と思ったNさんが後ろを振り向くと、すぐそこに先程くぐった鳥居が見えた。下にはほんの十数段くらいしかない。
友人たちもNさんの視線に気付いて後ろを振り向き、呆然としている。
そんなはずはないのだ。もう十分以上は階段を上り続けたはずなのに、こんな下にいるわけがない。
Nさんたちは顔を見合わせると無言で階段を下り、まっすぐ友人の一人のアパートへ向かった。


腰を落ち着けるなり、先程の階段の話題になった。
何だったんだあれ。
確かにずっと上まで上ったのにな。
あれか、肝試しのつもりで上ったのがよくなかったか。
そんなことを言い合っていると、突然玄関のドアが開いて誰かが入ってきた。
えっ?
入ってきたのはその部屋の主だった。
しかし彼は今さっき一緒に部屋に入ってきて、今も一緒に話していたところだ。
なぜ外から入ってくる?
しかし見回してみると今まで部屋にいたはずのその友人がいない。
外から入ってきた友人は不満げに言う。
――お前ら、神社に行ったんじゃないのか。先回りして俺の部屋にいるなんて、そもそもどうやって鍵開けたんだ?
友人の話によるとこうだった。夕食後の帰り道、Nさんともう一人の友人が無言で神社の階段を上っていってしまった。止める間もなく行ってしまってすぐに姿が見えなくなってしまったので、仕方なく一人で帰宅したところ、なぜかアパートの部屋にはNさんたちが先にいたのだという。
彼の話はNさんの記憶とは全く食い違っており、話が噛み合わない。
あまりに辻褄が合わないので、それ以上この話は追求しないことにしたという。