跳び箱

中学校の跳び箱の授業中のこと。
一人ずつ順番に跳んでいって、ある女子生徒の順番が回ってきた。
その女子も助走して踏み切ったが、跳び箱の上に手をついた次の瞬間、ふっと姿が見えなくなった。
その瞬間は他の生徒の多くや先生も見ていたが、とにかく急に消えたようにしか見えなかったという。
騒然となった。
数人が跳び箱に駆け寄ったが、消えた生徒の姿はどこにもない。
どこへ消えたのか、何が起きたのか全くわからなかった。
すると、跳び箱を誰かがガタガタ揺らし始めた。
――誰か助けて!
中から声も聞こえる。
一段目を外すと、消えた生徒が中にいた。


跳び箱に手をついたと思ったら、急に視界が暗くなったという。なぜか狭くて身動きも取れない。
隙間から外が見えて、ようやくそこが跳び箱の中だとわかったのだという。


自分から跳び箱の中に入るには跳び箱を何段か持ち上げなければならないが、多くの視線がある状況で誰にも気づかれずにそんなことはできなかった。
その場にいた誰にも、なぜ彼女が跳び箱の中に入ってしまったのか見当がつかなかったという。