塾 その1

学習塾を経営する会社に勤めるNさんは、ある時茨城の教室に転勤になった。
その直前に新しい物件に移転したばかりの教室で、内装も真新しく、Nさんもすぐに気に入った。
しかし数日経ってから、どうもおかしいと思うようになった。
午前中に出勤して教室の鍵を開けると、扉を開けた瞬間に焼きたてのパンのような香りがするのだ。
ほぼ毎日そうなので、近くにパン屋でもあるのかと思ったがそんなものは見当たらない。
そもそも香りは扉を開けてから漂ってくる。
つまり、教室の中から出ていることになる。
しかし教室は隅にトイレがある他には部屋も分かれておらず、他の建物とも繋がっていない。
ガスすら通っていない建物の中で、なぜ焼き立てパンの香りがするのだろうか。
しかも香りは四六時中するのではなく、午前中しか感じられない。
夕方になって授業をする頃には、すでに消えてしまっている。
しばらくの間、Nさんはこれがどこから出てくる香りなのかずっと気がかりだった。
それがある時、一人の生徒から聞いた話で謎が少し解けたのだという。
生徒の話によると、その建物は以前パン屋の店舗だったということである。