塾 その2

同じ教室での話。
授業が終わり、講師もみな帰って、Nさんも軽く掃除機をかけてから帰ろうと思っていたところである生徒の保護者が一人やってきた。
今後の授業方針のことや子供の進路のことで少し話したいというので、遅い時刻ではあるがNさんも相談に応じた。
保護者を面談席に通して四十分ほど話をし、区切りがついたので保護者を先に教室から出し、すぐに灯りを消してNさんも外に出た。
するとまだ保護者は教室の前にいて、Nさんにこう言った。
「先生、なんでまだ生徒がいるのに電気を消しちゃうんですか?」
Nさんは何のことだかわからない。
授業はとっくに終わっていて、この保護者が来る前に生徒は全員帰っている。
生徒なんかもういませんよ、と返事をすると保護者は怪訝な顔をする。
「え、でも今私が出てくる時にも机に一人座ってましたよね?さっき教室に来た時にも奥の方にいましたし」
そんなはずはなかった。
この保護者が来る前は片付けをしていたので教室全体を見回っている。
大して広い建物でもないので、生徒か誰かが残っていればすぐに気がついたはずである。
保護者の様子があまりに真剣なので、Nさんも思わず背筋が冷たくなった。


その後も何度か、その教室ではそこにいないはずの子供が目撃されているのだというが、業務に支障はないので授業は普通に行われている。