サイレン

Uさんという主婦が幼い息子を連れて近所の公園へと出かけた。
よく晴れた秋口の昼下がりのことだったという。
いつもなら平日にも小さな子を連れた母親が何人かいるのが普通だったが、その時は珍しく他にほとんど人気がなかった。
他の主婦とも話をしたい気分だったのでUさんは少し残念に思ったが、息子の方は特に周囲を気にせずに砂場で遊びだした。
そしてUさんが近くのベンチに座ってその様子をしばらく眺めているときのこと。
突然、辺り一面に大きな音が鳴り響いた。


ウゥゥゥゥーーーーーーーーーーー!!


見上げると、どうやらそのサイレンは公園の脇に立つ支柱に備えられたスピーカーから鳴っているようだった。
火事かなにかの知らせなのだろうか。
しかしそれまでその地区でそんなサイレンなど聞いたことがない。
大きな音に驚いた息子が近くに寄ってきて、不安そうにUさんの手を握った。
「ママ、この音なに?」
そう聞かれてもUさんにも何のサイレンなのかわからない。
ただずっと鳴り響いているサイレンを聞いていると無性に不安になってきて、Uさんは息子の手を引いてすぐに帰宅した。
アパートのあたりまで来るともうサイレンも聞こえなくなっていた。
ドアを開けると、玄関に夫の靴がある。
普段は夜八時を過ぎないと帰ってこないのに、今日はずいぶん早いのね。
夫にそう言うと、ひどい剣幕で叱られた。
「こんな時間まで連絡もせずに、子供連れでどこ行ってたんだ!」
こんな時間って何よ、と部屋の時計を見るとなぜか針は十時を回っている。
この時計壊れてるの?と他の時計に目をやろうとして、その時初めて窓の外が真っ暗なことに気が付いた。
公園から帰ってきてアパートの玄関に入る時までは確かに真昼間だったはずなのに、いつのまにかすっかり日が暮れている。
息子もなぜかすっかり疲れきっていて、そのまま倒れるように眠ってしまった。


後日、再びその公園に行くと、スピーカーの付いた支柱など周囲のどこにも立っていなかった。