金色

Oさんという人がある日、通勤のためにバスに乗ると車内が異様な状態だった。
Oさん以外の乗客の顔が、みな金色をしているのである。
混み具合はいつもと同じくらいなものの、なぜかどの顔も金粉を塗ったように金色に光沢を帯びている。
学生だろうとスーツを着た大人だろうとみな一様に金色だった。
寝ぼけているか、あるいは夢でも見ているのかとも考えたが、どうやらそうでもなさそうである。
バスの外を歩いている人々は別段金色には見えないから、自分の頭がおかしくなったというわけでもなさそうだ、とOさんは思った。
しかしそうならば一体これはどういうことなのか。
他人の顔をじろじろ見るのも失礼なので横目で回りの人々を観察してみたが、顔が金色をしている以外は特に変わったところもなく、誰もがごく普通に振舞っている。
顔色が違うというだけで、どこかの異世界にでも迷い込んでしまったような違和感があった。
Oさんは内心ビクビクしながら金色に輝く人々と一緒にバスに揺られ、その日も無事に出勤した。


その後も別段バスが事故を起こしたとか、そういった異変は起こらなかったが、また他の乗客の顔が金色に見えるようなことがあると厭なので、程なくしてOさんは自転車通勤に切り替えたのだという。