ラジオ

中学生のOさんが同級生数人と一緒に夏祭りを見に出かけた。
出店を回り、祭囃子を聞きながら飲み食いして大いに楽しんだので、そのまま帰るのも何だか勿体ないような気分だった。
誰かが「肝試しに行かない?」と言い出したので、Oさんたちはそのままの勢いで自転車で十五分ほどのところにある墓地に向かった。
祭りが行われている所から離れた地区なのでそのあたりにはほとんど人出がない。
街灯も疎らな中で墓地に足を踏み入れるのは流石に不気味で、祭りで興奮していたOさんたちも一気に怖気づいてしまった。
しかしそこまで来て引き返すのもつまらないし、一人ではないから怖さも薄い。
口先では何でもない風を装いながら、連れ立って墓地に入っていった。
それほど大きな墓地ではないが、回りを背の高い生垣に囲まれているので周囲の民家の灯りもあまり届かない。
携帯電話の灯りで照らしながら歩いたが、それでもひどく暗く思えたという。
墓地の中ほどまで歩いた時に、一人が「何か聞こえない?」と言い出した。
耳を澄ませてみると、かすかではあるが確かにボソボソと誰かが話しているような声が聞こえる。
一気に不気味さが増したが、別の一人が「いや、これ近くのテレビかラジオの声じゃないの?」と言う。
そう言われればそんな風にも聞こえるので、Oさんも少し安心した。
どっちから聞こえてくるのか確かめてみようよ、とまた他の一人が言うので、声のする方向を確かめながらぞろぞろと歩いて行った。
どうやら声の発信源はそれほど遠くなさそうだった。
しかしOさんは声の方に近づいてゆくにつれて、なぜだかどんどん嫌な気分になってゆく。
そして声がどうやらこの辺りから聞こえてくるようだ、という辺りに辿り着いた時、そこには誰もいなかった。
テレビもラジオもない。そこには墓石しかなかった。
ボソボソした声は、そこにある一基の墓石から出ていたのだ。
そんなわけない、とその墓石の回りをぐるりと探ってみるが、確かに声はそこから響いている。
まるで墓石がラジオにでもなったようだった。
墓石に近寄ってもその声が何と言っているのかは全く聞き取れない。
ただひたすら、よくわからないことを呟いている。
Oさんたちは我先にと逃げ出して、息を切らせて家に帰った。
声がすることそのものより、近寄っても内容が聞き取れないことが無性に怖かったのだという。