Fさんという女性が小学生の時のことである。
真夏の昼下がり、自分の部屋で昼寝をしていると、何だか右の手のひらがムズムズして目が覚めた。
寝ている間に握りしめていたらしい右手を開いてみると、なぜか一本の釘がある。
五センチほどの真新しい釘で、青白い光沢がある。
寝る前にそんなものを持った覚えもなければ、部屋にだって置いておいた覚えもない。
一体こんなものがどこからきたのだろう、と居間にいた母親に話してみた。
話を聞いた母は少し黙りこんでから、Fさんを見据えて言った。
「最近はそんなことなかったから気にしてなかったんだけど……前にもそういうこと何度かあったんだよ。覚えてないの?」
そう言われてもFさんには覚えがない。
母の話はこうだった。
Fさんがまだ赤ちゃんの頃、寝ているFさんがいつの間にか釘を握りしめていることが何度かあった。
怪我でもしたら大変なので周囲にはそんなものを置いてあるはずはないのだが、気が付くといつの間にか小さな手に握りしめている。
柵付きのベビーベッドの中に寝かせてあって、その外には手がとどかないような状況であってもなぜか釘が現れた。
悩んだ両親はFさんをお祓いにまで連れて行ったのだというが、特に効果はなかった。
Fさんが成長するうちに次第に釘が現れる回数が減っていったので、母も最近はあまり気にしていなかったのだという。
――という話を聞いたところで、Fさん自身にはそんな幼い頃の記憶などない。
なぜ自分の手に釘が出るのかはまったく見当が付かなかった。
それからも釘は時々Fさんの右手に出てきた。いつも決まって寝ている間にいつの間にか握っている。
しかし、就職して家を出た頃からはずっと出てきていないのだという。
家に関係があったのだろうか、と思ったFさんは、あまり実家に帰らなくなったという。