Hさんは中学生の頃、整理整頓が苦手だった。
学校の授業などで貰ったプリントなどはまとめてグシャッと鞄に押しこむのが常で、家に帰ってからも整理などしないまま机の抽斗かその辺にある箱に突っ込んでおくくらいだった。
ある日の夕方も自分の部屋に戻ると、鞄の中の教科書とノートだけは机の上に置き、それ以外のプリント類は特に見返しもせずに机の一番下の抽斗に入れた。
抽斗にはそれまで何度も押し込んだプリント類がぐしゃぐしゃに重なっていて、そろそろ満杯になりそうな様子である。
そろそろ整理しなくちゃいけないかな、面倒くさいな、そのうちやればいいか……などと考えながらグッと力を込めて引き出しを閉めると、プリントの端が少し抽斗の隙間に挟まった。
もう一度開けて入れなおすのも面倒だと思ったHさんはそのまま放っておくことにしたのだが、そこから目を逸らしかけた瞬間、はみ出したプリントが抽斗の中にズズズッと引っ張り込まれたのが見えた。
Hさんは一旦そのまま視線を外したが、今見たものを思い返してみて、慌ててもう一度抽斗を見直した。
そんなことはあるはずがない。
抽斗の中はプリントで一杯で、隙間などほとんどないのだ。
プリントを引っ張りそうなものなどない。
……ないはずだ。
Hさんはそこに直接触るのが何だか恐ろしくなって、部屋にあったハンガーを抽匣の取っ手にかけて、恐る恐る引っ張ってみた。
すると先程あれだけ乱雑に押し込んだはずのプリントの束が、抽斗の中で綺麗に重ねられている。
皺くちゃになっていたものもひとつ残らず平らに伸ばされて、しっかりと整頓されていた。
呆気にとられたHさんはそれから抽斗を全部引き出して奥まで確かめてみたものの、特に変わったところはない。
ただ、こういう風に整理して片付けるんだよ、と誰かに言われているような気がして、それからHさんはなるべく丁寧に片付けるようにしたという。